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【報告レポート】人を支えるテクノロジーの未来共創プログラム・キックオフイベント開催

2016年3月12日|新着情報

2016年3月3日に大和ハウス工業の協力のもとスタートさせた新しいプログラム「人を支えるテクノロジーの未来共創」のキックオフイベントは、お陰さまで多方面から多くの方々へご参加いただき、盛況にて終了しました。
当日の内容についてご報告します。



【開催概要】

■2016年3月3日(水) 17時~20時
■会場:大和ハウス工業本社会議室
■主催:NPO法人ハーモニー・アイ 協力:大和ハウス工業株式会社



【基調講演:「人を支えるテクノロジーの現状と課題」】

大和ハウス工業株式会社 ヒューマン・ケア事業推進部
 ロボット事業推進室 室長
仙谷幸法氏
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「人を支えるテクノロジーの現状と課題」というテーマについて、大和ハウスがどのように取り組んでいるのかについて、ご紹介します。

日本は今後10年間で生産人口が600万人減るのですが、65歳以上の人口は262万人増えます。また、平成27年12月の完全失業率は3.3%で失業者が205万人、有効求人率は1.2倍ですが、介護職の求人率は2倍以上となっています。
一方、介護ロボットに関する調査を見てみると、介護をする側で59.8%、介護を受ける側で65.1%の人たちが利用してみたいという結果になっています。その介護ロボットに期待することとして、平成25年に行われた世論調査ではトップが排泄ケアで62.5%の人が期待しています。
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このように期待が集まっている、介護分野でのロボット活用に対して大和ハウスでは、人間の身体機能をサポートするロボットスーツや歩行を助けるカート、排泄物を吸引するロボットなど、合わせて9つの商品を展開しています。私たちの役割は、これらの商品を開発してるメーカーと、利用が想定されている現場の間に入り、双方が抱えているさまざまな課題を解決して商品化のサポートを行うことです。
さらに、これらの商品を普及させるための提案も行っています。個々の商品分野でそれぞれ課題があるのですが、たとえばロボットに関しては、現在は開発が終わった段階で導入期にあたります。これから普及期に入っていくのですが、現時点での大きな課題は価格が高いということです。その課題を解決するために私たちは、無駄をそぎ落としながらも必要な仕様を満たすための努力を続けてきました。その他にも普及に向けた壁として、これまでのやり方を変えたくないという日本の文化的な考え方を取り除かなければいけません。
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次に紹介するロボットスーツHALは、短い時間の中で必要な仕様を満たす努力を重ね、市場の評価を受けて改良を続けながら製品に仕上げてきました。装着することで、人間が本来持っている身体機能を改善・補助・拡張することができる、サイボーグ型のロボットです。
HALは、「技術というものは人の役に立ってこそ初めて意味がある」と語り2004年にCYBERDYNEという会社を立ち上げた、山海嘉之氏が開発しました。人間は股の筋肉を収縮させて関節を動かすのですが、その際には、脳からの電気信号が股の筋肉に伝わってきます。その信号は皮膚の表面から微弱に漏れ出ており、HALはその信号をセンシングしてモーターを動かしているのです。2015年5月からは新製品として、自立支援用の単関節タイプや介護支援用の腰タイプも発売しました。特に腰タイプは簡単に装着でき、重さも2.9キロと軽量です。実際に人間の体で腰椎にセンサーを入れて解析を行うと、HALを装着した状態では腰椎の負担が軽減されていることがわかり、腰痛発症のリスクが軽減されると考えられます。
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介護分野におけるHALの用途としては、立ち上がりや移乗、体位変換の介助などで活用していきたいと思っています。また、従来からある下肢タイプのHALに関しては、筋ジストロフィやALSといった難病の進行具合を緩めるための用途も考えられています。すでに治験が終了し、2016年春以降には日本で初めて、装着型ロボットが医療機器として市場に出て行くことになっています。
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【パネルディスカッション1:「高齢者の見守り、コミュニケーションロボットの現状と未来」】

<モデレーター>
馬塲寿実(NPO法人ハーモニー・アイ代表理事)

<パネラー>
山崎正人氏(工業デザイナー/東海大学非常勤講師)
神山晃男氏(株式会社こころみ/株式会社テレノイド計画 代表取締役社長)
青木俊介氏(株式会社ユカイ工学 代表取締役社長)

■NPO法人ハーモニー・アイ 馬塲寿実
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まずはモデレーターとして、自己紹介をさせていただきます。私はNPO法人ハーモニー・アイの代表理事でもあり、個人の事業として「50代からの幸せ研究所」を立ち上げています。この数年間で「50代からのiPad」、「50代からのSNS」、「50代から楽しむiPad」、「50代から差がつくヘルスケア 健康習慣をつくる!iPhone/iPadの上手な使いかた」といったように、「50代から」がタイトルについた書籍を4冊出版させていただきました。これらの本を出版するにあたって、認知症予防や歩くことの大切さ、DNA検査などヘルスケアについて学びました。それがきっかけとなって、今回のイベントを着手することになりました。
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■工業デザイナー/東海大学非常勤講師 山崎正人氏
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私は認知症がある人の支援にも関わっているのですが、今日は認知症介護環境デザイナーとして自己紹介をさせていただきます。現在の仕事は約13年間に渡る実母の認知症介護が基本になっており、そのような環境の中でデザイナーの視点から、いろいろな試みを行ってきました。たとえば、記憶障害や判断力の低下を補う表示物づくり、見まちがえからの混乱を軽減するための工夫や孫と認知症の祖母が円滑に過ごせる生活空間づくり、家電製品などの誤操作を回避して機器を継続使用する自立支援といったことです。
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我が家の認知症介護では、母の自立(自律)支援と行動障害の軽減に多くの工夫を試み、看取り後にはそれらの分析に着手しました。それを資料として整理したのが「我が家の認知症介護4648日」という介護の全貌の可視化でした。
また、一人でも多く、認知症のある方と深く長く、なじみの関係を構築しながらさまざまな支援を行いたいと思い、月の3分の1くらいはグループホームでケアに携わっております。ここで大切にしているのが、個別性やそれぞれの能力に合わせた介護です。日常の介護と連動して、それぞれの利用者さんの残存能力を見極め、その能力を造型活動で活用し、そこで、新たに発見した(隠れていた)能力を日常生活で活用、それを繰り返しながら、個々のいきいきとした生活、円滑な共同生活を考えています。他にも、ICT技術などを用いた企業でのアイデア出しのお手伝いや、最近では産学協同研究として、デザイン関係の学生たちと企業のデザイナーとで、認知症のある方やその前段階の方の支援を考えています。
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■株式会社こころみ/株式会社テレノイド計画 神山晃男氏
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社名にもなっているテレノイドとは、ときどきテレビに出てくるマツコロイドというロボットを作っているATR特別研究所長の石黒 浩先生が創作した、遠隔操作型のロボットです。人間としての必要最小限の見かけと、動きの要素のみで構成されているため、人間にしか見えないんだけれど、誰にも似ていない。男とも女とも、子どもとも大人とも、日本人とも外人とも見え、見方によっては逆に誰にでも見えます。
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これを見たみなさんの反応ですが、一般的には怖いとか気持ち悪いといった感想でした。ところが、高齢者や認知症の方からは、かわいいという反応をいただきました。そこで、そういった方々に対してのコミュニケーション機器として研究を進めていこうと、2015年にテレノイド計画という会社を作りました。
実際に高齢者施設に持っていった反応としては、普段はスタッフとも話をしないという、人付き合い自体を拒否しているような方が、テレノイドを見てかわいいと話しかけたりすることがありました。他にも子守歌を歌ったり、子供だと思って世話をしたり構ってあげたりしようとする人もいました。むしろ、普通に人と話をするよりも、テレノイドと話をする方が心地良いといったようなリアクションをすることが多かったです。
2016年3月までは、介護施設にご協力をいただいて 実験やテストマーケティングを行い、具体的にどのようなサービスをビジネスとして提供すれば、より多くの方々に受け入れていただけるか検討していきます。
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■株式会社ユカイ工学 青木俊介氏
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ユカイ工学はまだ社員15名の小さな会社ですが、さまざまなロボットを開発して製品化しています。この会社も、もともとはATRの石黒先生から学生時代に指導していただいた仲間で立ち上げました。今回みなさんにご紹介するのは、2015年4月から販売しているBOCCO(ボッコ)というロボットです。BOCCOは、家に置いて使っていただくことを想定しています。たとえば、両親が共働きで、鍵っ子のお子さんがいる家庭を想定しましょう。お子さんが学校から家に帰ってくると、ドアに付けたセンサーが開閉を検知し、親の携帯やスマホに通知が届きます。それを見た親がスマホからボイスメールを送ると、家に置いてあるBOCCOが再生してくれますし、文字でメッセージを送った場合はそれを読み上げてくれます。また、お子さんがBOCCOに声を録音すると、両親のスマホにそれが届きます。
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BOCCOはBluetoothとWiFiを搭載し、8個までセンサーを追加できます。そして、ドアの開閉以外にも鍵の開閉や、温湿度、人が通ったことを検知するセンサーなども用意しています。また、Wi-Fiでインターネットに接続できるので、天気予報サービスから得た情報を毎朝喋ってくれることもできます。将来は音声認識などの機能を追加し、部屋の中にあるエアコンや照明、テレビなどをBOCCOからコントロールできる機能の搭載なども計画しています。
子どもにスマホを持たせると心配だったり、スマホがまだ使えない子供とやりとりをすることを簡単にするロボット。今後は高齢者の方々にも使っていただくために、千葉大学やNTT西日本と一緒に実証実験を行っていく予定です。
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馬塲:
靑木さんと神山さんへの質問です。ロボットと人間のコミュニケーションという視点から見ると、最近はPepperのように事前にプログラムされていて人工的に返答するロボットの方が主流のようです。そのような中、なぜテレノイドやBOCCOのように人が人の相手をするロボットを開発しているですか?

神山:
これは非常に単純な話で、人工知能の会話能力はまだまだ人間には及ばないと思っているからです。Siriなどのように、「今日の天気はなに?」というような目的型の質問に応えるのはある意味簡単ですが、話相手として会話に応えるのは極めて難しい。その時の文脈だとか、周りの環境などを把握して応えないと、会話が単調でつまらないものになってしまいます。そういう面での対話能力は、ロボットはまだまだ人間よりもつまらないと思っています。だったら、ロボットのインタフェースの良さだけを生かして、裏側で人間が応えているというほうが、今の段階では受け入れやすいのではないかと思っています。

靑木:
僕も同じ意見です。石黒先生からも、「ロボットはインタフェースとして使われるようになる」と教えられました。ロボット自体と会話をしても、まだ楽しめるレベルは難しい。人間に置き換えても、いきなり知らない人と1対1で会話して、楽しく盛り上げるにはかなり高度なスキルが必要です。人間でも難しいことをロボットにやらせるのは、難しすぎると思っています。やはり、ロボットの向こうに人間がいて、ロボットが人間同士のやりとりを助けるとか、ネットから情報を探してきて音声通知をやってくれるという使い方になってくると思います。

馬塲:
パネラーの皆様へ共通の質問です。高齢者がいる室内に、見守りをするためのカメラを設置するシステムがよく見られます。寝たきりではなく、ある程度動ける高齢者の自宅に設置することもあるのですが、そういったことについてはどう思っていますか?

靑木:
BOCCOを高齢者宅に設置する時に、「これカメラないよね」と強く聞かれます。なので、やはりカメラがあると、ユーザーからのハードルが上がってしまうんじゃないかと懸念しています。BOCCOでカメラを搭載しなかったのも、そのハードルが大きいと思っているからです。

神山:
カメラのハードルが高いというのは同意です。普通の人だとまずあり得ない。ところが、テレノイドのようなものだとOKで、見られているとわかっている前提だと、カメラがあっても自然みたいなところがあります。これが、どこかに置いたままずっと記録し続けていますよということになると、また別な話だと思います。一方で、認知症の方への対応は別の問題で、撮った映像を誰が見るのという話になります。対象者に異変が起きたことを考え、カメラで撮っていれば安心ですよと言われるのですが、じゃあそれって日頃から誰が見ているのって話になります。そういう場合は、センサーによって異変が起きたことがわかれば十分なのです。

馬塲:
山崎先生は実際に高齢者と接していて、カメラ以外の仕組みがあると語られていたのですが、どうでしょうか。

山崎:
カメラがなくても、センサーでいろんな状況を読み取ることができます。その人が自傷行為を行う可能があったり、他の人に暴力を振るうことなどが考えられるならば、カメラによる鮮明な画像が必要になるかも知れません。でも、シルエットだけでも大体の行動はわかるし、人の動きをアニメのようなものに置き換える技術もあります。もっとも、それがいいのかどうかはなんともいえませんが。

馬塲:
最後にみなさんへの質問です。高齢者や独居老人の方々にコミュニケーションロボットを使っていただくために、なにか新しい展開を考えていれば教えてください。

山崎:
ロボットといい関係を結べたとしても、家の中だけでその関係を成り立たせるだけではなく、その人がより社会とつながりができるように、ロボットが介在できないかなと思っています。

神山:
テレノイド計画はまだ始まったばかりです。まずはこれを広げていくために、いろんな施設とどういう使い方ができるかを検討している最中です。その中で、自閉症のお子さんに使ったらどうかという実験も始まっています。それ以外にも、音楽療法と組み合わせ、テレノイドを通して歌を歌おうといった取り組みなど、いろいろなことを試しています。今日参加されているみなさんからも、こんなことに使えるよとかアイデアがあれば、後ほど意見交換をさせていただきたいと思っています。
一方でこころみという会社においては、電話を使ったサービスとして、独り暮らしの高齢者を対象に話し相手になり、その会話の内容を家族にもお伝えするということを行っています。そのスタッフが、テレノイドを通じて話し相手になるという展開をしています。

青山:
じつは、以前からこころみのサービスを拝見していて、すごくすてきなサービスだなと思っていました。僕たちももう少しローコストに、ロボットを使った話しかけのサービスができないかなと考えています。今後は、独り暮らしのお年寄りの方々にも使っていただければと思っています。


【パネルディスカッション2:「歩くを支えるテクノロジーの現状と未来」】

<モデレーター>
間瀬樹省(ケアスタディ株式会社 代表取締役社長)

<パネリスト>
山下和彦(東京医療保健大学 医療保健学部医学情報学科 教授)
藤井 仁(RTワークス株式会社 代表取締役)
仙谷幸法(大和ハウス工業株式会社 ヒューマン・ケア事業推進部 ロボット事業推進室 室長)

■東京医療保健大学 山下和彦氏
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東京医療保険大学と大阪大学で研究を行っています。専門は医用生体工学で、主に高齢者の身体機能計測機器を開発したり、手術時に体の中に器具を忘れてくることを予防するための機器の開発などを行っています。
人間が立つことを支えているのは、足や足の爪です。ところが、高齢者の中には外反母趾や巻き爪で爪が変形したり、糖尿病による足病変で足が黒く変色したり皮がめくれたりなどの症状を持った人がいます。そのような状態では、まともに歩くこともできません。そんな方でも、実際に足や爪を改善してあげると、気持ちも前向きに変わり、サンダルを履いて外に出てたくさん歩くようになります。
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自力で歩くためには、足の筋力、歩行機能、バランス機能といった3つの要素が重要で、歩行支援と足下を支えるための支援の両方が必要になってきます。私たちは、実際にそれらの機能がどれくらい劣ってくると歩けなくなるか、転倒リスクが上がるのかについて調べています。とはいえ、調査データを見える化するだけでは意味がなく、そこから得られたデータを使って、その人の生き方をどういうふうに支援するかが研究の鍵になります。
一方で、高齢者ばかりではなく、子どもの足にも課題があります。現在、中学生の外反母趾は6割を超え、これを放っておくと、将来高齢者になると必ず転倒率リスクが大きくなります。そうならないように、子どもの頃から正しい骨格が形成されるように支援することも重要です。
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■RTワークス株式会社 藤井 仁氏
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RTワークスは、電機メーカーとしての技術、サービスを予防介護の分野に転用できないかということをコンセプトに、船井電機からベンチャーとして独立した会社です。歩行支援を行う介護ロボット「ロボットアシストウォーカーRT.1」を開発しました。RT.1を見た人からは、どこがロボットなのかとよく言われます。しかしながら、人の動きや力の強さを測るセンサーがあり、CPUでコントロールされるモーターやアクチュエータがあるなど、ロボットとしての技術要件は満たしています。
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基本的にはハンドルに手を添えて押して歩くだけで、路面状況や人の動きを検知して全自動で歩行をアシストします。上り坂ではパワーアシストによって楽々に上ることができ、下り坂では重くなって勝手に転がっていかなくなります。さらに、斜めに傾斜がついた道でも横に流させることなくまっすぐ歩いて行けます。もう一つの特徴として、携帯電話の電波が届くところでは常に通信を行っているので、歩行経路、歩行距離、速度、歩幅、歩数などをスマートフォンやパソコンからリアルタイムに確認することができます。さらに、過去のデータと比較して、健康管理や予防管理に役立てることもできます。またGPSを搭載し、転倒した場合にはあらかじめ登録しておいたメールアドレスに、どこどこで転倒しましたといった通知が届きます。
このように、運動機能として歩行支援を行うと同時に、ネットワークを使って高齢者を見守る機能も製品の強みとして展開しています。
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■大和ハウス工業株式会社 仙谷幸法氏

もともとスポーツが大好きで、大和ハウスグループでフィットネスクラブに関わる事業を20年ほど担当していました。インストラクタとしてスタジオでいろんなレッスンを行ったり、プールやアウトドアで指導を行うなど、健康な人に向けてスポーツを楽しんでもらうことを仕事にしていました。
そこでは、障がいのある人からも「私はこの状態でも入会できますか」と相談を受けることがありました。しかし、視覚が弱い、膝が痛くて階段を上ることができないなど安全を確保できない方が多く、お断りしていました。そういったことが続き、自分の中で問題視することになり、なんとか障がいをもった方にも、フィットネスで健康な生活を送ってもらえないかと考えるようになりました。
これらの経験から、障がいがある方へのフィットネス提供が必要と考え、ロボットスーツの普及事業に関わる部署へ転籍して現在にいたっております。


■ケアスタディ株式会社 間瀬樹省氏
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弊社は介護施設専門の設計事務所です。弊社では介護施設を計画する際、そこに住む方がご自分でできることが増やせるようになる設計を心がけています。たとえばトイレは、車椅子からの移乗を行いやすいように便器後方からアプローチします。浴室は浴槽のふちを掴みやすく加工することで、浴槽を手すりのように持って使用することができます。居室用洗面台はお住まいの方の体格や体の状況に合わせて、高さを変えることができます。
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これらの取り組みの延長上で設計したのが、「支える椅子」です。介護施設では、車椅子のまま食事をしている方が多いのですが、足がしっかり床まで届かないために姿勢が不安定になり、食事に適した前傾姿勢がとれず誤嚥の原因にもなります。本来、食事の時は椅子に座り変えて欲しいのですが、世の中の椅子のほとんどは、介護が必要なお年寄り向けの設計にはなっていません。サイズは元気な男性向けですし、奥行きも大きすぎて正しい位置で骨盤を支えることができません。そのため、いわゆる「ずっこけ座り」になってしまい、食事が上手に食べられず介助が必要になるという悪循環が起こっているのです。
支える椅子は、体格に合わせて高さが調整できる、背中をしっかり支えることができる、食事に適した前傾姿勢が取りやすい、お尻が滑りにくいといった特徴があります。実際に使っていただくと、車椅子で姿勢が悪かった方が見違えるように改善したり、もともと椅子に座るのが難しかった方が今では他の椅子にも座れて、数歩ですが歩くこともできるようになりました。自分が設計した椅子が歩行の機能を高め、生活を向上させることにつながったことを嬉しく思っています。
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間瀬:
山下先生に質問させていただきます。私たちはだれしも、年をとったら歩けなくなるのではないかという不安を持っているのですが、高齢になっても元気に自分の足で歩き続けるにはどうすればいいのでしょうか。

山下:
歩く機能はわりと複雑で、目の機能、揺れを捉える耳の機能、足裏の情報、それに加えて足の筋力など複合的に考えていかなければなりません。そのどれが欠けても、歩行機能は下がっていきます。筋力を上げることは、通常の介護活動でもさんざんやっていると思いますが、歩行機能という点から着目した介護予防活動はあまりありません。歩行機能を維持したり上げるためには、足の指をしっかり動かせるようにするとか、かかとの機能を高めてあげるとか、爪の状態を改善するとかさまざまありますが、足下をしっかりケアするということが、まず第一歩だと思います。実際にそういった活動をすると、歩行機能も高まっているし、介護レベルが改善している例がたくさんあります。

間瀬:
高齢になると転倒や骨折といった事故が起こりやすくなると思いますが、その原因と転倒骨折の防止策について教えてください。

山下:
身体レベルにもよりますが、今まで1000人から2000人くらい計測し研究をしてきた中での転倒発生率はゼロです。転倒というのは、不用意なところでたくさん起きます。だから、歩行機能を高めるにはどうすればいいのかをしっかりと教えてあげることです。そして、環境因子、身体機能、心的因子の3つをきちんと整理することです。
身近なところでいうと、たとえば環境因子については、家の中で座布団が転がっている、洗濯物が広がっているといったことが転倒リスクを高めます。また、信号が渡りきれなくて途中から小走りするが足がもつれてしまうとか、運動会でお父さんが足がもつれて転ぶみたいに、自分ではできると思うんだけど実はできないというのは心的な因子です。それと、計測器で測って足指力が2.5キロを下回ると転倒発生率が9倍くらい上がることがあります。日頃から定量的な身体機能の計測を行い、環境因子と心的因子に気をつけていればいいと思います。

間瀬:
介護予防活動がさかんに行われているのに、なかなか介護を受ける人が減らないということは、内容に問題があるのでしょうか。介護の予防の現状と、今後のあるべき姿についてのお考えをお聞かせください。

山下:
行政が行っている地域の介護予防活動は、デイサービスを除いて3カ月間と決まっています。なので、せっかく身体機能がよくなっても、卒業するとまた元に戻ってしまう。受け皿が十分じゃないことが大きな課題です。誰でも活用でき、多少お金がかかってもいいので、しっかりと効果を実感できることが、介護予防を普及させる上で重要です。それ以外にも、おもしろい、エビデンスがしっかりしていてみんなが安心して取り組める、といったことがとても大事。それを評価するシステム、運動やケアを指導する人、保険医や看護師などメンタル面で支えてくれる人が存在することが、これからの介護予防活動では重要になってくると思います。

間瀬:
将来、高齢になってもしっかりと歩くことができるようになるために、若い方や子供たちが今からできることはありますでしょうか。

山下:
人間の骨格は20歳で完成するのですが、小学生の頃はまだ足なども軟骨です。かかとの骨やその周辺は、10歳くらいに骨化が進んでいきます。したがって、かかとが曲がっている子供たちはまっすぐにしてあげるとか、くるぶしの下に骨が出っ張っている場合も小学校高学年までに靴の補正などをしてあげればまっずぐになっていきます。したがって、骨格の補正については12歳までに行います。
骨格形成が終了した20歳以降は、だんだんと体の機能が衰えてきます。足の指でじゃんけんのグーを作った時にゲンコツができるかというのが、評価指標になったりします。指だけを曲げるとできないが、根元から曲げるとできるなど、そんなちょっとしたことをチェックしながら、お風呂の中でケアを行ったりすると、今の機能をしっかり維持して下がっていくことはないでしょう。中高年からでも、転倒予防、身体機能の維持という意味では大変有効だと思います。

間瀬:
藤井さんへの質問です。ご紹介いただいたRT.1と、今まで世の中にいろいろと出てきたシルバーカートとの大きな違いについて教えてください。

藤井:
開発中もいろんな展示会に持っていって説明していたのですが、最初の頃はアシストを売りにしました。上りが楽ですとか、重い荷物を運ぶ時も楽ですとか、アシスト自転車を例にしていました。ところが、実際に使われる高齢者の方に触っていただくと、9割以上が下りがいいですねえというんです。なぜかというと、普通のシルバーカートだと下りは勝手に転がっていき、足がついていかなくて転倒につながる。上り坂や、荷物がある時も頑張ればなんとかなるけれど、下り道は怖くて躊躇してしまうそうなんです。そこで途中から、「下りがいいんです」とセールストークを変えました。そこが、他のシルバーカートとの大きな違いです。

間瀬:
小型化や軽量化など、今後そういった商品展開の予定はありますでしょうか。また、RT.1以外の商品の開発予定はありますでしょうか。

藤井:
デザインに関して、従来のシルバーカートから見たらやっぱりかっこ悪いというイメージもあるので検討しています。また、重量が15キロくらいあり、押して歩く分にはモーターがアシストするので軽いのですが持ち上げるとなると重いので、そのうち軽くしたいと思っています。値段も22万8千円もするので、半分くらいにしたいなと考えています。それと、今は屋外での利用をメインにしているのですが、屋内でも利用できるように考えています。屋内の場合は歩行支援に加えて、ベッドからの立ち座り立ち上がりまでを一つの機器で実現することを目指します。
RT.1以外の商品ということについては、センサーやモーターを制御することでパーソナルモビリティなどの開発も技術的には可能です。ただ、安全面や道路交通法への対応などいろんな課題があり、そこはすぐには難しいと思っています。それ以外に考えている展開としては、インターネットにつながるので、スマホなどとの連携によるサービスの提供です。歩くことにモチベーションを持たせる工夫をします。たとえば、商店街と一緒になって、あるお店の前を通ったら「今日は○○が安いです」って喋ってくれたり、ポイントが溜まったりなどのサービスを考えています。

間瀬:
仙谷さんへの質問です。大和ハウスさんの福祉事業という取り組みの中で、ロボットの活用を選択された理由を聞かせてください。また、大和ハウスさんがロボットを取り扱うかどうかを決める、基準はあるのでしょうか。

仙谷:
大和ハウスには、シルバーエイジ研究所という介護施設の建築事業があります。そこで高齢者向け住宅を研究していた頃に、弊社の会長が山海先生と直接会話をし、将来ロボットが人の役に立つのではないかと考えたことからロボットの活用が始まっています。
取り扱いを検討するロボットについては、まず技術面を検証します。そして、その技術が実際に役立っているストーリーをわれわれがきちんと描けるのか。さらに、われわれと経営者がしっかりと密になってやっていけるのか、そこには市場性があるのか。それらをある一定期間調査して会議にかけて決めます。弊社では全社員が「儲かることを考えるな、人の役に立つことを考えろ」という意識を持って仕事をしています。なによりも、本当に人から喜ばれるものなのかというところが、一番大切だと思っています。

間瀬:
ロボットは人間の仕事を奪ったり、頼りすぎると人間の体が衰えてしまうという人もいますが、そのことについてはどのようなお考えをお持ちでしょうか。

仙谷:
山海先生は、じつはこういったテクノロジーが進化すると、人間の進化が止まってしまうと言っています。ロボットが進化すると、人間が怠けて身体機能が低下するのではないかという話ですが、弊社では人間がもつ残存機能を維持する、またはそれを生かしながら機能を上げていくことを、実現したいと思っています。たとえば、ロボットのおかげで車イス生活の人が、ちょっと歩けたりすることが実現できるのですが、ロボットがない場合は座ったきりや寝たきりになってしまい、どんどん活動機能が低下していきます。したがって、ロボットを使うことが、健康維持につながっていくのではないかと考えています。

間瀬:
最後にみなさんから、本日のテーマである歩くを支えるテクノロジーについて、一言ずつ聞かせてください。

仙谷:
歩くということは、最近では鬱の症状の改善にもつながると言われたり、いろいろとメリットがあると思います。自然に動くというのは、歩くことにつながると思っているので、まずは歩くを基点にしたところからテクノロジーが発展していくことが、使う側にとっても支える側にとってもいいのではないでしょうか。

藤井:
RT.1を使って歩いてくださいといっても、なかなか歩いてくれません。結局、歩くことは目的ではなく、手段なのです。RT.1を使って歩くことによって、郵便局に自分で行けるとか、コンビニに行って好きなものを買うことができるようになります。もう一つは、歩くことに対するモチベーションを上げることが、非常に大切だと思います。物理的な支援と同時に、高齢者はなぜ歩くのか、どういった生活がしたいのかということを考えながら、開発しなければならないと思っています。

山下:
歩くということは、自己実現や社会参加がキーワードになってきます。最近ではICTを活用し、活動量計による情報収集を行って支援することも考えられています。日常的な活動の中で急にアクティビティが下がってくると、何か原因が考えられます。そういったデータを、ワンポイントで見るのではなく定量的に評価し、その人の生活の流れの中でどういう支援が必要かということを考える。体の機能だけでなく、ICTを活用した情報収集の両面から、その人の活動や自己実現を支えていくことをテクノロジーとして考えています。

○富士通SSL Live Talkプレゼン

株式会社富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ

本年4月から、障害者差別解消法が施行されます。富士通グループではそれに先立ち、聴覚障がい者と共に働く職場作りというコンセプトのもと、昨年5月からLive Talkという商品を販売しています。Live Talkは、ネットワークでつながった複数のパソコンに発言の内容を共有させることで、会議内容を再現するコミュニケツールです。会議のメンバーの中に聴覚障がい者がいた場合に、手元のタブレットやノートパソコンの画面に、話者が発言している内容をリアルタイムに文字で表示させることができます。これにより、健常者と障がい者との間で円滑にコミュニケーションをとることができます。
聴覚障がい者の発言をサポートする機能として、他者の発言に対してなにか意見を言いたい、もしくは理解をしたといった時に、スタンプボタンを押すことによってコミュニケーションをとることができます。その他にも、あらかじめ登録しておいた定型文を表示させることや、誤認識の修正機能などがあります。
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会議やミーティング以外での導入事例として、聴覚障がい者を交えたセミナーやプレゼンなどで講演者の発表内容をスクリーンに投影することも可能です。その他の活用例として、弊社で居酒屋に聴覚障がい者を招いて交流会を行った時に、Live Talkを利用して当事者の方にその場の雰囲気を感じていただき、大変喜んでいただきました。
特別な訓練も必要なく、初めて利用する方でもゆっくりと相手に伝えたいと思って話すことで、認識率を上げることができます。
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【今後のプログラム説明】


本日はキックオフでしたので、いろいろな方をゲストにお招きしました。今後は月に1回テーマを決め、本年12月までに7回開催していく予定です。次回は4月20日で、その次は5月19日と決まっています。
次回は、人間だれしも、ロボットがどんなに進んでも一生つきまとう、排泄という課題をテーマに開催します。高齢になると、排泄は介護する方もされる方も大きな問題となります。大和ハウスでも、寝たきりで排泄物を吸引しておしりまで洗ってくれる装置を取り扱っています。それ以降は、本日紹介したコミュニケーションロボットや認知症予防のテクノロジーなどを中心に、展開していきたいと考えています。

主催者だけでなく、みなさんと一緒に作り上げていく共創プログラムにしていきたいと思っています。


【会場展示】

大和ハウス工業「ロボットスーツHAL」
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大和ハウス工業「メンタルコミットロボット パロ」
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テレノイド計画「テレノイド」
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ユカイ工学「BOCCO」
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東京医療保健大学「足指力計測器」
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東京医療保健大学「膝間力計測器」
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RTワークス「RT.1」
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ケアスタディ「支える椅子」
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